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Dr's NOTE

2026年9月9日

膝のお皿の下が痛いのは…

「脂肪体の癒着」という原因かも?

「膝のお皿の下が痛い」

「膝を伸ばしきると痛む」

「膝の手術をしてから、なんとなく膝が伸びにくい」

このような症状が続いている場合、膝のお皿の下にある**「脂肪体」**という組織が関係していることがあります。

あまり聞き慣れない名前ですが、脂肪体は膝をスムーズに動かすために大切な組織です。けがや手術、繰り返す炎症などによって、この脂肪体が周囲の組織とくっついてしまうことがあり、これを**「癒着」**といいます。

今回は、膝のお皿の下の痛みの原因のひとつである「脂肪体の癒着」について解説します。


膝のお皿の下には「脂肪体」があります

膝のお皿を**膝蓋骨(しつがいこつ)**といいます。

膝蓋骨からすねの骨に向かって伸びている丈夫な組織が**膝蓋腱(しつがいけん)**です。

その膝蓋腱のすぐ奥には、**膝蓋下脂肪体(しつがいかしぼうたい)**というやわらかい組織があります。

「脂肪」という名前ですが、単なるクッションではありません。多くの神経や血管があり、膝を曲げ伸ばしするたびに形を変えながら動いています。

そのため、脂肪体に炎症や癒着が起こると、膝のお皿の下の痛みにつながることがあります。


脂肪体の「癒着」とは?

正常な膝では、膝蓋腱や脂肪体は、曲げ伸ばしに合わせてそれぞれ滑るように動いています。

ところが、膝を強くぶつけた、スポーツなどで繰り返し負担がかかった、膝の手術を受けた、腫れや炎症が長く続いた——こうしたことをきっかけに、脂肪体が炎症を起こすことがあります。

炎症が長引くと、組織が徐々に硬くなり、瘢痕ができてきます。さらに進むと、本来は別々に動くはずの脂肪体と膝蓋腱、すねの骨などがくっついてしまう。これが癒着です。

炎症
↓
瘢痕ができる
↓
周囲とくっつく
↓
膝の中の動きが悪くなる

という流れです。


癒着すると、なぜ膝が痛むの?

脂肪体が癒着すると、膝を動かすたびに、くっついた部分が引っ張られます。脂肪体には痛みを感じる神経が多いため、この刺激によって痛みが出ることがあります。

また、癒着によって膝のお皿や膝蓋腱の動きまで悪くなると、膝の前側に余計な負担がかかります。その結果、膝のお皿の下の痛み、膝を伸ばすときの痛み、最後まで伸びきらない感覚、お皿の動きにくさ、階段や立ち上がりでの痛みといった症状につながることがあります。


「腱が痛い」と思っていても、その奥が原因のことがあります

膝のお皿の下が痛いと、「腱を傷めているのでは?」と思われる方も多いと思います。

もちろん、膝蓋腱そのものが痛みの原因になることもあります。しかし、そのすぐ奥には脂肪体があるため、膝蓋腱そのものの痛みと脂肪体の痛みは症状がよく似ています。

さらに、膝蓋腱と脂肪体が癒着している場合には、両方が一緒に引っ張られるため、痛む場所だけで原因を判断するのは難しくなります。「膝のお皿の下が痛い」というだけで、原因をひとつに決めつけないことが大切です。


膝の手術後に起こることもあります

脂肪体の癒着は、膝の手術後にも起こることがあります。特に、前十字靭帯の手術、膝蓋腱を使った靭帯再建術、膝の関節鏡手術、膝の前側を操作する手術などのあとに報告されています。

もちろん、手術を受けた方すべてに起こるわけではありません。ただし、手術後の腫れや炎症が長く続くと、瘢痕が増えて組織同士がくっつくことがあります。

「手術後から膝の前が痛い」「手術後から膝が最後まで伸びない」という場合には、脂肪体やその周囲の癒着も確認する必要があります。


どのように診断しますか?

診断では、まず実際に膝を診察することが大切です。

当院では、どこが痛いか、膝が最後まで伸びるか、左右で伸び方に差がないか、膝のお皿が上下左右に動くか、膝のお皿の下に圧痛があるか、などを確認します。

特に、膝が最後まで伸びない、膝のお皿が上の方向に動きにくいという所見は、膝の前方に癒着があるときの手がかりになります。


MRIやエコーで状態を確認します

必要に応じてMRIを行い、脂肪体の炎症や瘢痕、膝蓋腱の状態、膝のお皿の位置などを確認します。

一方、超音波(エコー)には、膝を実際に動かしながら観察できるというメリットがあります。膝を曲げ伸ばししながら、膝蓋腱と、その奥にある脂肪体がきちんと滑っているかを見ることができ、左右の膝を比較することで動きの違いが分かることもあります。

ただし、画像だけで診断するのではなく、症状・診察・画像を合わせて判断することが重要です。


治療はまず保存療法から

軽度から中等度であれば、まず手術以外の治療を行います。大切なのは、痛い場所だけを治療するのではなく、膝のお皿・膝蓋腱・脂肪体がスムーズに動ける状態を取り戻すことです。

治療では、運動量や膝への負担の調整、炎症を抑える治療、膝のお皿の動きを改善するリハビリ、膝をしっかり伸ばす練習、太ももの筋力トレーニング、膝周囲の柔軟性改善、歩き方やスクワットなど身体の使い方の修正、などを組み合わせます。


エコーを使った「ハイドロリリース」という治療もあります

脂肪体や膝蓋腱の周囲に癒着が疑われる場合には、エコー下ハイドロリリースという治療が行われることもあります。

ハイドロリリースとは、超音波で膝蓋腱や脂肪体を確認しながら、癒着して動きが悪くなっている組織の間に生理食塩水などを注入する治療です。液体を組織と組織の間に入れることで、くっついて動きにくくなっている組織の間にスペースをつくり、滑りを改善させることを目的とします。

膝の手術後に脂肪体が瘢痕化した症例に対して、エコー下ハイドロリリースを行い、痛みや膝の動きが改善したという報告もあります。エコーでは治療前後の組織の動きをその場で確認できるため、**「本当に膝蓋腱と脂肪体の滑りが悪いのか」**を評価しながら治療できる点も特徴です。

ただし、現時点では、ハイドロリリースに関する研究は症例報告などが中心で、すべての脂肪体癒着に対する有効性が確立しているわけではありません。特に、長期間経過して硬い瘢痕が完成している場合には、注射だけで十分に改善しないこともあります。


マッサージだけで癒着は剥がれる?

よくある質問が、「マッサージで癒着は剥がれますか?」という質問です。

炎症が強くなく、組織の動きが少し悪くなっている程度であれば、リハビリや徒手治療によって動きが改善することがあります。一方で、すでに硬い瘢痕となり、しっかりと組織同士がくっついている場合には、外からマッサージするだけで完全に剥がすことは困難です。

炎症が主体なのか、動きが悪くなっている段階なのか、すでに強い癒着が完成しているのかを見極めることが大切です。


保存療法やハイドロリリースで改善しない場合は?

十分なリハビリや治療を行っても症状が改善せず、はっきりとした癒着が確認された場合には、手術が検討されることもあります。

代表的なのが、関節鏡を使って癒着した部分を解除する治療です。膝に小さな穴をあけてカメラを入れ、動きを妨げている瘢痕を確認しながら切り離します。過去の報告では、長期間の保存療法で改善しなかった患者さんにこの治療を行い、痛みや膝の動きが改善したとされています。

つまり治療は、

リハビリ・負荷調整
↓
必要に応じてエコー下ハイドロリリース
↓
強い癒着が残る場合には関節鏡下の癒着剥離

と、状態に応じて段階的に考えることができます。

すべての患者さんに手術が必要なわけではありません。まずは、どこに痛みの原因があるのか、炎症が主体なのか、癒着が主体なのかを正しく見極めることが重要です。


まとめ

膝のお皿の下には、膝蓋下脂肪体という重要な組織があります。

この脂肪体に炎症が続くと、

炎症
↓
瘢痕ができる
↓
周囲と癒着する
↓
膝のお皿や腱の動きが悪くなる
↓
痛みや膝の伸ばしにくさが起こる

ことがあります。

特に、膝のお皿の下がずっと痛い、膝を伸ばすと痛い、以前より膝が伸びにくい、膝の手術後から痛みが続いている——という場合には、膝蓋腱だけでなく、その奥にある脂肪体や周囲組織の動きまで確認することが大切です。

治療ではリハビリが基本ですが、症例によってはエコー下ハイドロリリースが選択肢になることもあります。それでも改善しない強い癒着では、関節鏡を用いた癒着剥離術が検討されます。

「なかなか治らない膝の前側の痛み」には、このような見落とされやすい原因が隠れていることもあります。


参考文献

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